新現美術協会50年史掲載(2000年12月刊行)
「抽象から具象へ」
ちょうど2年程前でしょうか。中国へ旅する機会を得ました。いまではめずらしくもなんでもなくなった国外旅行でしたが、20数年前のヨーロッパ以来の久しぶりの旅だったのと、気の置けない友人との旅と言うことで、実に楽しいものになったのは言うまでもありませんが、わずか数日間の中国の古い小さな町々を巡る旅は私には衝撃的であり、そこで出会った風景を何らかの形で残しておかなければと言う強い思いが、頭から離れなかったのです。ヨーロッパの国々を旅して目にしたものとは違って、それはまさに私が過ごした町の風景であり、おおげさに言えば私の人格形成のうえで多大な影響を及ぼした生活空間そのものであったのです。
今では日本中至るところ、村であれ町であれ規格化が進み、機能一辺倒の区画整備は塀や軒そして路地、出店と言ったものを消し去り、そこにあった濃密な人間関係や生活の濃厚な匂いさえ消し去ってしまったように思われるのです。そんなとき出会った中国での風景は、今では忘れかけていたまさに私の心の原風景であり、強いノスタルジィアと共に描き残す義務感に捕らわれてしまったのです。
今まで抽象画を描いていた私ですが、気負わずにしばらくはこのモチーフを描きながら、私の心の風景へと発展させて行ければと願っているところです。
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